いちばん



あなた






ねつ造、台湾君と香港ちゃん
台湾君は好青年で鈍感、香港ちゃんは英国帰りの無口無表情。






「駄目、美味しくない」

香港は自分の淹れた紅茶を一口飲むと、ため息を吐いた。
がっかりした声を聞いて、香港に振る舞われた紅茶を見下ろす。
琥珀色が微妙な表情を浮かべるおれを映していた。これでは彼女の言葉を肯定したようだ、と慌てて瞬きをして香港を伺う。
美味しいものは好きだし、それなりに口にしてきた。そんな舌でも、十分すぎる程に香港の淹れた紅茶は満足させてくれたのだけれど。
それだけに、どうやらその味がお気に召さなかった香港におれは面食らってしまった。


「駄目なの?美味しいけど」
「うーん、風味がちょっと飛んじゃってる的な…あと温度ちょっと間違えた」


香港はイギリスさんのところにいたときに、散々紅茶の淹れ方を指導されたそうだ。
おれにはよくわからないのだけれど、紅茶は奥の深い飲み物らしい。
蒸らす時間から注ぎ方までに細かい工夫が必要で、ちょっとしたミスでも味や風味が微妙に変わってしまうんだとか。
温度とか、飲んでたら冷めちゃうものなのになぁ、と思ったことは内緒。


「なに、紅茶を極めてるの」
「まあ、極めてるっていうと大袈裟だけど」

香港はイギリスさんの元にいた間に合格点を貰えなかったのだとぽやく。彼に認めてもらいたいのかな。
そういえば、香港はほんの少しだけ、英国に行く前より立ち振る舞いが上品になった気がする。
別にそれ以前が悪かった訳ではないんだけど。それはひとえに、イギリスさんの教育によるものだろう。
きっと、レディたるものが何たるかを逐一注意・指導していたに違いない。
香港はマイペースで、あんまり言うことを聞いてくれない。イギリスさんも香港についてそんなことを言っていた気がする。
だけれど、耳を貸していないかというとそうでもなくて、だから、やっぱり何だかんだでイギリスさんの言葉を聞いている。
それは、彼の影響がゼロではないということの証明でもある。
香港にとっては割とイギリスさんって大きな存在なのかもしれない。

何だか少し寂しくなって、
(じわじわと何かが浸食していく感じ、これを寂しいというのかおれにはわからない。でも他に何というかもわからないので)、
紅茶を一口。

もやもやと考え事をしていたせいでそれは少し冷めていた。
だけれどやっぱり美味しくて、改めて尋ねてみる。


「香港はイギリスさんに認めてほしいんだ」
「は?なにそれうける」


意外だという声音で即答されて思わず、えっ、と気の抜けた声が漏れた。
慌てて口を押さえたけれど、こぼれた言葉を捕まえることは勿論出来ない。
おれの間抜けな声に香港は訝しんだように目を細めた。

「いや、つか何でそんなこと聞くの?こっちがびっくりするんだけど」
「だって」
「私は自分が納得する紅茶を淹れたいだけ的な。確かにイギリスにはまだ認められてないけど、それはまあ1つの尺度っていうか。
 それが目的な訳じゃないし。当たり前じゃん」
「当たり前かなあ…」
「イギリスが合格点くれるくらいの代物なら、だいぶ私の理想に近いのかもなとか思った訳。でもそれに私が満足するかは別」
「なるほどね」


おれが頷くと香港は長い髪を少し乱暴に後ろへ払った。
おれと同じ色をした、でもおれより少し柔らかい黒髪がふわりと広がって、香港の肩の後ろに流れた。
いつも無表情だけれど、今は少し不機嫌に見える。何か気に障ることを言っただろうか。
女の子ってよくわからない。紅茶を飲み終えた香港は、カップを置き頬杖をついた。


「なんか心外」
「え、何が?」
「妙な勘違いされてるっぽいとこと、勘違いしてる本人がその勘違いを自覚してないとこ」
「よくわかんないんだけど…」
「マジで違うから。別にイギリス嫌いでもないけど、そういうあれでもないから」
「へ、へえ?」
「台湾って誤魔化すとき大体笑うよね。わかんないならもういいけど」
「うーん、ごめん…?」
「………」


何となく謝ってしまうと、香港はふいと視線を逸らせてしまった。
でも香港の言葉はおれには本当によくわからなかったので、やっぱりおれは誤魔化すように笑う。
誤魔化し笑いを癖として指摘された後だったけれど、怒るとか泣くとかよりはましだろう。


「ところで、今日はなんだか饒舌だね」
「…そう?マジで?」


おれがごちそうさま、とカップを置きながら言うと、香港は目を瞬かせた。
それから、首を傾げながら腕を組む。
眉を寄せて今日のことを反芻しているのだろう香港に、少し可笑しくなりつつもティーカップを片づける。
記憶を探って空に向けていた香港の目線がおれに戻ってきた。


「いつも通りだったと思うけど」
「そう?香港、普段あんまり話さないからおれは気がついたんだけどなあ」
「じゃ、台湾と話してたからだ」
「そう………え?」


香港は力強く一つ頷くと、おれからカップ諸々が乗ったトレーを奪って席を立った。

「どういう意味?」
「さあ?」

その声にはからかっているような響きがある。どうやら機嫌は上向いたらしい。
ああ、もう本当によくわからない。キッチンに向かおうと反転させた体をぴたりと止めて、香港は振り向いた。

「私、紅茶今までに台湾に何杯淹れた?」
「覚えてないよ、結構ごちそうになってるから」
「そう。まだ先生や日本さんとか、韓国には淹れたことないんだけど」
「え、そうなんだ?なんで?」
「さあ?」


さっきと同じ一言、それだけ言って、香港はキッチンに消えて行った。
今度はおれが首を傾げる番だった。















イギリスさんはマナーとか散々世話焼いてたイメージ。
台湾くんは内心奥深くで香港ちゃんがイギリスのこと好きだと勘違いしている。
香港ちゃんはそれに気づいてて不本意である。
台湾くんがわからない香港ちゃんの気持ちの答えはタイトルをご覧下さい



(10.11.11ログ、11.03.21up)