こ の 
 で








英×にょた分です。気持ちだけ。





「うち、ほんまアンタらが嫌いやわ」

不機嫌そうに眉をひそめて、笑顔で取り繕うこともなくスペインは言った。
手には高級そうなカップが握られている。注がれていたはずの、それなりに高価な茶葉で淹れられた紅茶は既に無い。
中身は一口も口を付けられることなく、目の前の男にぶちまけたからだ。

「…クリーニング代は支払ってくれるんだろうな」

感情を抑えたような声でイギリスが唸るように言った。
濡れて色濃くなったスーツをハンカチで拭うが殆んど意味はない。
じわじわと染みていく冷めた紅茶の冷たさに此方も不機嫌そうに眉をひそめた。これで紅茶が熱いままならとっくに怒鳴り散らしているだろう。
その隣でアメリカが呆けた顔で二人を交互に見ていた。
幸い紅茶は浴びなかったらしい。しかし、スペインにきつい目で睨まれて驚いたのか片手を上げたまま硬直していた。
スペインはカップを乱暴にテーブルに戻すと、腕を組んで鼻を鳴らした。

「悪いのはそっちやん。うちが何度声かけたって止めんかったやろ?そやから、実力行使に出ただけやで」

目を細めて仁王立ちする女はそれだけ言って踵を返した。
世界会議中、いつもの如く会議は踊っており、会場はひどく賑やかだった。
もはや会議とは名ばかりで、好き勝手に席を移動して会話を楽しんでいるグループもある。
そのため、この騒動に気付いていない国もいたが、それでも主要な国々は緊張した面持ちで事態の行方を見守っていた。
会議をまとめようとしていたドイツは、思わぬスペインの行動に不意を突かれたらしい。
瞬きを繰り返し、席に戻るスペインを目で追っていた。

「ちょっとスペイン、どうしたの」

席に着いたスペインに、フランスが声をかける。
今回、フランスは席順の関係でイギリスともアメリカとも離れた位置に座っていた。
未だに動けないでいるアメリカと、ため息を吐きながら席を立つイギリスをちらりと見やってスペインに顔を寄せる。

「あいつらうるさいねん!何回黙れゆーても聞いてへんし!」
「いつものことでしょうが。いくら何でも紅茶ぶっかけんのはどうよ?何のドラマ?…しかもこういう場で」
「せ、せやかて…あそこで止めんと…!」
「止めないと?」


「イタちゃんとロマが起きてまうやん……!」



「イタリアァァァ!!!」
緊迫感は一気に霧散し、彼女の言葉を聞いた国々は脱力した。
成る程、仲良く机に突っ伏したイタリア兄弟が気持ち良さそうに寝息を立てている。
目をきらきらさせながら兄弟を見つめるスペインの一言にフランスは盛大にずっこけてみせた。
スペインの言葉を受け、ようやくその事実に気付いたドイツは青筋を立てながらイタリアの肩を揺らそうと近づく。

「わー!待ってや!もうちょい寝かせたってもええやん!」
「スペイン!お前はいつもそうやって甘やかすが………」
「まだ起こさんとってー!可愛ええんやもん!まだ眺め足りんのやもん!」
「そういう理由なの!?」

先程ずっこけたフランスが横からびしりとまたツッコミを入れる。
その様子を横目で見ながら、イギリスは一度アメリカに声をかけてから静かに会議場を出た。
スーツの予備は無かったが、私服の替えはある。
今回持ってきた服は、幸いTシャツにジーンズというラフな服でもないし、まあ何とかなるだろう。




「本当に好き嫌いがはっきりしてるな」

昔から変わらない嫌悪の視線には慣れた。
数百年前に女王陛下の命でスペインに海賊をけしかけて以来、ずっとあの視線と表情を向けられている。
よくもまあ昔の出来事をずるずると引きずるもんだ、とかつての太陽の沈まない国を思う。
感情というものはひどく複雑で、しかしとても単純である。
どうやら彼女は自分の感情をシンプルに二分しているようだ。元より、物事を深く考えるのも苦手なようである。
好きか嫌いか。しかし、それは本当に二択だろうか?必ずしもそうではない。
愛の正反対は無関心、とはよく言ったものだ。
嫌悪であろうが憎悪であろうが、あの目が色を乗せてイギリスを映す限り其れが正反対にひっくり返る可能性は無きにしも非ず、だ。
けれども、彼女の髪を優しく撫でてやる自分というのはどうにも想像出来ない。

どちらかと言えば――――


冷めた碧と視線が合う度に、溢れた紅茶のようにじわじわと広がる彼の其れはまだ彼女には見えていないようだ。














紳士× 海賊さん○
嫌がるにょた分をねじ伏せたい英しか想像出来なかった
にょた分は心底英嫌い
にょた分は親分よりねちねち嫌いますよ!女だからね!
親分って、サバサバしてるんだけど一度その人を嫌ったらなかなかひっくり返らないだろうなあ


(10.07.17ログ、11.03.21up)