ペット






アーサーがフェリに首輪つけて飼ってる話。ほもではない。






俺は犬を飼っている。

犬としてはずいぶんと大型だが、俺よりはやや小柄だ。
犬と言っても、そいつは2本足で歩くし、ちゃんとフォークを使って飯を食う。
食事での行儀はいいからテーブルを汚すことはないが、メニューによっては全く手をつけないからコックの手を焼いている。
犬はじゃらじゃらと首輪から伸びる鎖の届く範囲で動き回るが、大抵ソファーで丸まって寝ている。
ソファーは日当たりのいい場所に設置しているから居心地がよいのだろう。
飼い始めた当初、犬というよりむしろ猫のようだと皮肉を言うと犬は首を傾げた。
くるりと丸まった髪が日に透けて揺れたのを覚えている。

ある日、玩具として絵の具を与えると、其れを使って絵を描き始めた。
気まぐれに何枚か絵を描いて、飽きれば寝る。
犬の1日はそんな風に過ぎた。




本田と茶を飲んでいたときのことだ。
本田というのは俺の仕事での同期で、日本人の男だ。国民性か、真面目で少し自虐的なところがある。
不思議と気が合うため、こうしてたまに食事をしたり茶を飲んだりする。
しかしここ最近、本田の元気が無い。どうしたのだろうかと心配になって、俺が誘ったのだ。


「何かあったのか?仕事では大したミスはしてないだろ?」
「仕事ではないんです。あの…友人が…行方不明になってしまって」
「行方不明?」
「…三週間ほど前から。ルートさん…あっ、共通の友人なんですけど。ルートさんは心配することないっておっしゃるんですが」
「三週間もいないって、結構やばくねえか?」
「ええ、事件や事故に巻き込まれたのではと心配で。
 ルートさん曰わく、彼は昔からたまに長期間姿を消しては旅行に行ってただのと言ってあっさり帰ってくるらしくて、心配するだけ無駄だと」
「そうは言っても心配するよな。でも、まあルートって奴の方がそいつのこと詳しいんだろ。そいつが言うなら大丈夫なんじゃないか?
 あまりにも音沙汰がないなら警察に届けるなり何かすればいいだろ」
「そう、ですね…ありがとうございます」

本田がそう言いつつも目を伏せた。ふと思い当たって本田に尋ねる。

「なあ本田、お前犬飼ってたよな」
「はっ?はい、飼ってますよ」
「俺も三週間前から飼い始めたんだけどさ」
「へええ、意外です。アーサーさんって猫の方がお好きなイメージなんですが」
「そうか?うーん、そいつさ、吠えないんだよな」
「お利口さんなんですねえ」
「…病気とかじゃないのか?」
「え?吠えないから一概に病気だとは言えませんよ。様子はどうですか?」
「至って元気だが…鳴くこともないし」
「鳴くこともない?うーん、まあ、そんな犬もいますよ。心配なら一度医者に診せたらどうですか」
「そうだなぁ…」


かちゃり、とティーカップを置いて俺は唸った。






帰宅すると、犬はいつものようにソファーで寝ていた。
俺は、犬が自身とソファーの間に敷いていた毛布を力一杯掴んで引いた。
毛布に引きずられるように犬の体がソファーから転げ落ちて、絨毯の上に着地する。
ごつんと鈍い音がして、犬が驚いたように跳ね起きた。
頭を打ったらしく、軽くさすりながら目を白黒させていた。
俺は毛布を乱暴に手放して犬と目線を合わせるようにしゃがむ。
その鳶色の目を覗き込んで、俺は言った。


「俺は煩い犬はいらないって言った」
「………」
「俺の言葉を覚えてんのか、お前はなかなか吠えない。出来た奴だよ全く」
「………」
「でも、犬ってのはもう少し騒がしくてもいいそうだ」
「………」
「ほら。わん」


促すと、犬は俺をその瞳に怪訝な色を乗せて見つめた。
まさか本当に病気なのか?少しの沈黙に不安になった。
しかし、犬は目を細めて無表情のまま、そうだこの犬は基本的に無表情なのだが、やがて息を吐いた。
仕方がないとでも言いたげなため息だ。


「わん」


ああ、全く愛嬌がない犬だ。









これを漫画で描きたい私がいます



(10.12.17ログ、11.03.21up)