情 け









妄想あらすじ
仏とあのこは恋人同士で結婚式も近く仲睦まじく暮らしていた。
しかしそこで不運な交通事故。少年いぎをかばって車の前に飛び出したあのこ。
少年いぎは事故であのこに庇われて命をとりとめたものの、あのこは助からなくて死んでしまう。
少年いぎは家出中か孤児かで行き場なくてうろうろしてただけなので
仏兄ちゃんが引き取るものの、あのこが死んだ原因の子供との距離がわからん。
素っ気なく、少し辛く当たることもあるけどあのこが助けた命を邪険にもできず
少年いぎも人間嫌いなので出ていきたいが恋人を奪った負い目から
家出なんぞ出来ず………な大人と子供がぎりぎりしてる話







「あ、これはもう駄目だな」



キッチンから溜め息混じりの言葉が聞こえても顔は上げなかった。
がさがさと袋を探る音がして、冷蔵庫や戸棚の開く音が続く。今日は随分買い込んだようだ。
リビングに戻ってきた足音は此方にまっすぐ近づいてくる。
それから、俺が寝ているソファーの近くで止まった。
うつ伏せになっているから呼吸は少し苦しいが、寝たふりを続ける。
あいつは、大きな溜め息を吐いた。わざとらしいほど大袈裟な溜め息だ。
多分俺が狸寝入りをしているのに気付いているんだろう。



「何なの、体調でも悪い?それとも俺が作った飯が嫌だ?毒なんて入れてないんだけど。
 此れでももうすぐ店を持とうとしてるプロのシェフだしね、味は問題ないし、むしろタダで食べられるなんて幸運だよ?
 何あのパスタ。もうぱっさぱさに乾燥してるし風味も何もあったもんじゃないね。
 食べられたもんじゃないよあんなの。勿体ないけど捨てたから。
 食べなかったってことは今日は飯抜きでいいんだよな?」



「……………………」

一息で淡々と言い切った後、少しの沈黙。俺の答えを待っているようだ。
しかし返事はしなかった。固く目を瞑って、寝た振りを続ける。
そうしていると、目蓋の裏側でもう何度と夢に見た光景が再生される。

黒い車が突っ込んできて、大きなクラクションの音、通行人の悲鳴、それから、車と衝突する寸前に温かな体温、直後に全身に衝撃を受け、暗転する。



「…………………パンは買ってあるから、テーブルの上」



そう残して、音は遠ざかっていく。
その声にはっとして、思わず目を開けた。そっと頭を動かして音の方を伺う。此方に背中を向けて部屋を出る、俺より色素の薄い金髪の男が見えた。
また自室に籠るんだろう。足音が聞こえなくなってから、漸く体を起こした。
部屋を見渡すと、目に止まるのが壁に飾られた写真だ。
男と、その恋人が幸せそうに微笑んでいる。目を背けても同じだ。
この家の至るところに彼女の痕跡が残っている。

俺が殺した。

目を伏せた。あれは事故だった、事故だったけれど、男にとっては俺は彼女の命を奪った元凶で、紛れもなく死神だった。
それでも行き場のない子供を放り出せなかったらしく、どういう訳か俺を引き取った男は未だに俺に対する態度を図りかねている。
憎むべきか、許すべきか。



許さなくていい、捨ててくれればいい。一言、出ていけと謂われれば直ぐにでも出ていくつもりなのに。



キッチンに入りごみ箱を開けると、夕食であったものが無惨に捨てられていた。
身動きの出来ない今、男にあっさりと捨てられたそれがひどく羨ましい。



「確かに、これは無理だ」




こんな結果を望んでいるはずなのに、しかし打ち捨てられたそれに自分を重ねるのはやはり怖くて、乱暴にごみ箱の蓋を閉めた。
















じりじりしてる。


(10.06.15 ログ、10.08.22up)