3022年11月





にいちゃんになぐられた右のほっぺたがいたい。


にいちゃんが引きずるようにぼくの手を引いて前を歩く。
季節は冬、こんやの寒さをしのぐばしょを探さなければ、凍えしんでしまう。
さっきは、せっかく優しいおとなのひとがそのばしょを貸してくれるって言ってくれたのに。
にいちゃんがぼくの手をにぎったまま、早足であるく。
だから、ぼくは足をもつれさせながらなんとか転ばないように気をつけなくちゃいけなかった。
よろけながら、ぼくはじんじんと熱いほっぺたをさすってぼろぼろと泣いた。
なみだでにじんだ視界でも、にいちゃんがぼくを見ていないことはわかる。
それがまたかなしくて、どんどんなみだは流れていった。


「にいちゃん、にいちゃん。なんでおこってるの?」
「…………………」

にいちゃんはへんじをしてくれない代わりに、ぐっとぼくの手をにぎりしめた。
いたい、とおもわずつぶやけば、にいちゃんは少し力をゆるめてくれた。
それでも、立ち止まることも振り向くこともしない。

「…………にいちゃん」
「…………………………」
「にいちゃん、…………あしがいたいよう」

ほんとはにいちゃんがなぐったほっぺたの方がいたかったのだけど、ぼくは泣き声でにいちゃんの背中にうったえた。
そうしたら、にいちゃんはようやく立ち止まってくれた。
ひっぱられてた力がふっと無くなって、つい前を歩いていたにいちゃんにぶつかりかけた。

「ばか、フェリシアーノ、の、ばか」

にいちゃんはうつむいて、震える声で言った。
ぼくはなんでにいちゃんがおこってるのかもわからないから、そう言われる理由もわからない。
だけど、おかあさんもおとうさんもいないぼくには、もうにいちゃんしかいない。
にいちゃんしか。

だから、ぼくはにいちゃんにきらわれてしまったら、一人になってしまう。

「にいちゃん、ごめんなさい」
「泣くなよ、ばか、ばか」
「ごめんなさい…」

ぼくを振り返ったにいちゃんは、泣いていなかった。
それから、着ていた服の袖でらんぼうにぼくの目をこすった。
ぼくは固く目をとじて、ただ、ごめんなさい、ごめんなさいってあやまった。でも、にいちゃんはそれ以上なにもしゃべらなかった。












「ごめんなさい」

そう繰り返して泣く弟を俺は黙って見下ろしていた。
俺がさっき殴ったフェリシアーノの片頬が赤く腫れている。
だけど、俺は罪悪感なんて感じなかった。こいつは、何度痛い目を見かけても懲りない。
何故自分が怒られたのかも理解していないに違いない。
こいつは、おとなを信じすぎるのだ。
本当に酷い目にあわなければ学ばない馬鹿だから。甘ったれ。
だから、俺は五歳になったばかりの小さな弟を殴った。
俺の細い腕には大した力なんてないだろう。でも、出せる限りの力で殴ったのだ。
弟も痛かっただろうが、俺だって痛かった。俺だって、思いきり泣きたかった。

にいちゃん、ごめんなさい、ごめんなさいと舌足らずに謝り続ける弟を見ながら、俺は今夜の寒さと飢えをしのぐ方法を考えていた。


それだけで精一杯だった。










いつか漫画で描きたいパラレル。
浮浪児かつ孤児状態のパスタ兄弟
フェリ(5)、ロヴィ(8)
小説で続けるか漫画で続くかはわかりません。


(10.09.14ログ、11.03.21up)