ばん!と勢いよく扉を開けた。
しかし、あの少年はそこにはいなかった。
代わりに、少年が足元に置いていたはずの学生鞄を、座り込んでじっと覗き込んでいるあの少女がいた。

「あ、れ?」

私が呆然としてドアノブを握ったまま呟くと少女が顔を上げた。


「きくさぁん、このかばん」
「え、あら、駄目ですよ、他人の物を勝手に…」
「なかみ、からっぽだよ」
「え?」


少女に歩み寄って覗き込む。
確かに鞄は空っぽだった。テキストどころかペンの一本も入っていない。

「………ううん」

コメントの仕様がなくて、つい唸る。
すると少女はまあいっか、と笑って鞄を後ろに押しやった。


「ここもちがうみたいだし」

「え?」



「だって、なかみがなくっちゃ意味ないですよ、きくさん」

ばたん。 開けっ放しにしていた扉が閉まる。
その音に振り返った瞬間に、私の意識はぷつりと途絶えた。